仙台高等裁判所 昭和27年(ネ)434号 判決
控訴審の訴訟費用中、参加によつて生じた分は参加人の負担とし、その他は控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は「原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び参加人の請求につき、参加人請求どおりの判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決及び参加人の参加申出につき、参加申出却下の判決を求め、なお参加人の請求の本案については、「参加人の請求を棄却する、参加による訴訟費用は参加人の負担とする。」との判決を求めた。参加代理人は「被控訴人が控訴人に対し本訴で明渡を求める福島市霞町四番の一所在家屋番号第十二番木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅一棟建坪六十二坪のうち約十四坪(原判決添付図面朱線の部分)につき、被控訴人と参加人間に賃貸借関係の存在することを確認する。被控訴人は参加人に対して右家屋の明渡を求めてはならない。参加による訴訟費用は控訴人、被控訴人の負担とする。」との判決を求めると述べた。
被控訴人及び控訴人の事実上の主張は(但し参加人の主張に対する分は後述)、被控訴代理人において、
一、本件家屋は昭和四年頃被控訴人の先代神岡好次郎が控訴人に賃貸したのであつて、被控訴人は昭和十五年頃先代好次郎の死亡によりその家督相続をし右家屋の賃貸人たる地位を承継したのである。
二、原判決事実摘示中一枚目裏最終行に「昭和二十六年十月五日」とあるのは「昭和二十六年十月六日」の誤りであるから訂正する。
三、本件家屋の賃貸借が終了した以上賃借人たる控訴人は家屋の明渡義務に附随しその敷地に建てた建物を収去して敷地を返還する義務がある。
と述べ、控訴代理人において、
一、被控訴人の右一の主張事実は賃借人が控訴人であるとの点を除いてこれを認める。
二、被控訴人の右二の訂正に異議がない。
三、原判決事実摘示の被控訴人主張の事実中賃貸借契約の内容及び賃料値上の点は争わない。
四、原判決添付第二物件目録記載の建物が控訴人の所有であることも争わない。
五、甲第五号証の四の弁済供託は賃借人半沢ツルが弁済すべきものを控訴人が間違つて弁済のため供託したのである。
と述べたほか、原判決の事実摘示と同じであるからこれを引用する。
参加代理人は参加の理由及び請求の原因として次のように述べた。
被控訴人は本訴において控訴人に対し係争家屋の賃貸借解除を理由として明渡を求めているけれども、右家屋の賃借人は控訴人ではなく参加人であり、本訴の結果により参加人の権利が害せられる虞れがあるから民事訴訟法第七十一条前段により参加する。即ち、
一、参加人は控訴人と昭和三年頃から内縁関係があり現在子供六人を抱え、煙草小売、印紙切手売捌及び雑貨商を営んでいるのである。
二、参加人は昭和四年頃控訴人の子を妊娠したので止むなく身の振り方をきめるべく、訴外堀越忠右衛門より現在の場所の煙草小売印紙切手売捌の権利を金二百五十円で譲受け昭和四年四月十五日本件家屋を期間の定なき賃料一ケ月金七円で被控訴人先代から賃借し居住するに至つた。もつともこの資金は控訴人に出して貰つたもので当時としては相当の金額であつた。
三、その後数ケ月を経て被控訴人先代からその所有の隣家十八坪五合が空家になつたので、控訴人はこれを賃借し、道具屋を始めたのであるが、この家屋賃借のときに両方の家屋の賃料を併せて一ケ月金十三円と定めたのである。
四、然るに当時不景気のため昭和七年頃より家賃の支払が滞り勝となり、昭和八年九月三日被控訴人先代より賃貸借契約を解除され、昭和九年三月中家屋明渡等の訴訟を福島区裁判所に提起されたのであるが、同年九月二十三日同裁判所で次のような裁判上の和解が成立した。
第一条 原告(本件被控訴人先代)及び被告両名(本件控訴人及び参加人)は、被告等が原告に連帯して支払うべき本件家屋の昭和九年二月末日までの延滞賃料を原告が被告ツルに支払うべき昭和九年二月末日までの煙草その他の取引代金と相殺し残金を八十円と協定する。
第二条 被告両名は連帯して右金八十円を、昭和九年三月二十三日限り五十円、同年九月末日限り三十円に分割して原告に支払うものとする。
第三条 被告両名は本件建物のうち福島市大字小山荒井字大豆田四番地所在木造亜鉛葺平家一棟建坪十八坪三合を昭和九年三月二十三日限り原告に明渡すべきものとする。
第四条 原告は被告両名に対し本件建物のうち福島市大字小山荒井字大豆田四番地所在木造亜鉛葺平家一棟六十八坪のうち東端十六坪の部分を賃料一ケ月金七円、毎月末日払として賃貸する、この賃貸借は昭和九年三月一日より起算し、被告両名は右賃貸借に基く賃料を連帯して原告に支払うべきものとする。
第五条 原告は被告等が第二条掲記の金三十円を支払うときは第四条の賃貸家屋に対する必要な修繕及び畳替をする。
五、右裁判上の和解の結果控訴人は隣家の一棟を被控訴人に明渡したので参加人と本件家屋に同居することになつたが、当時は控訴人には既に妻子のある事実が参加人にも解つたので、参加人は控訴人と別れたいと思い、幾度か離れようと決心し、控訴人が出て行つたり参加人が出たり風波は絶えなかつたが、子供も成長しいつまでも控訴人との生活を続けるわけにもいかず、昭和二十四年中福島家庭裁判所に控訴人と一切手を切るよう調停の申立をしたが、控訴人がどうしても応ぜず不調に終つた。それ以来参加人は日夜子供等との間にはさまれて苦労をしている次第である。
六、以上の次第で本件家屋の賃貸借については当初から参加人がその当事者であるのにかかわらず、被控訴人は本訴で控訴人に対する契約解除を原因として明渡を求めており、この訴訟の結果によつては参加人に対してまで明渡を強行する心配があるので参加人は民事訴訟法第七十一条前段により本訴に参加し、本訴の当事者双方に対して、参加人が本件家屋につき賃借権を有することの確認を求める次第である。
七、なお参加人は一ケ月当り煙草小売、切手売捌による収入約五千円、雑貨商による収入約二千円、二女の女車掌としての給料約五千円、合計金一万二千円の収入で細々と独立の生計を営んでおり、控訴人は在宅の多い場合少しく補助する程度で止むなく共同生活をつづけておる実情である。
八、参加人は戸籍上控訴人の養女となつているが、これは参加人不知の間に届出られたもので、控訴人は当時から妻子があつたため、参加人が離れ去るのをおそれて戸籍上つないでおくため右の措置に出たものと考えられる。なお控訴人が福島市役所に自己を世帯主として届出たのも、参加人一家から追出されることを恐れたためであつて、右のような届出は甚だしく実情に反するもので参加人は迷惑しており、、やむなく本訴に及んだ次第である。
参加代理人は以上のように陳述した。
控訴代理人は、参加人の主張事実はすべて争わないと述べた。
被控訴代理人は、参加人の本件参加申出に民事訴訟法第七十一条の参加の要件を欠く不適法なものである。即ち既存訴訟の当事者間には、共謀とか馴合等のことはなく、その他同条前段に規定する要件を具えないし、同条後段にあたらないことも明らかであるから右参加申出は許さるべきでないと述べ、なお参加人の本案の主張に対して次のように述べた。
一、参加人主張の第一項の事実中、参加人が控訴人と昭和三年頃から内縁関係があつたことは争わないが、その他は争う。現在家にいる子供は四人であり、煙草小売は営業名義人は参加人であつても実際の営業主は控訴人であり、雑貨商の営業主体も控訴人である。印紙切手の売捌は知らないが、仮にそれを行つているにしても控訴人が実際の営業主である。
二、同上第二項の事実のうち、参加人が控訴人の子を妊娠したのは昭和四年ではない、同年一月に既に半沢礼子が生れている。堀越忠左衛門から煙草小売、印紙切手売捌の権利を譲受けたのは、参加人でなく控訴人であり、その代金は二百五十円ではない。昭和四年四月十五日本件家屋を被控訴人先代から賃借したのは控訴人である。但しその頃参加人が本件家屋に控訴人と一緒に居住するに至つたことは争わない。
三、同上第三項の事実中、被控訴人所有の隣家十八坪五合が空家となつたので控訴人がこれを賃借し、賃料が双方を合せて一ケ月金十三円となつたことは争わないが、控訴人は右隣家が空家となつたのを奇貨とし、被控訴人方に無断で道具等を運び込み、暫く使用していたところ、被控訴人でこれを知りその無暴を責め、運び入れた道具等の搬出を求めたが、控訴人は言を左右にしてこれに応ぜず、止むなく使用を黙認することになつたもので、その後賃料を二軒で月十三円としたのである。
四、同上第四項の事実中、訴訟の提起及び裁判上の和解の成立したことは争わないが、右訴訟において被控訴人先代が、控訴人と参加人との両者を被告としたのは次の事情によるものである。即ち控訴人は昭和四年以来満足に賃料の支払をしたことなく、一年や二年の未払は常であつたので、已むなく裁判所を煩わして控訴人に対し賃料の支払や家屋の明渡を求めてきたのであるが、その請求にあうや控訴人は詭弁を弄し、前述二軒の家屋を使つている関係上、自分はこちらで、あちらは参加人と云い、或は控訴人は不在という具合に参加人の名義を持出して全く手が附けられなかつた。そこで控訴人と参加人との両名を被告とすればその手が封ぜられるので、訴訟代理人において便宜上参加人をも被告にしたまでで、何をおいても乱暴な控訴人とのかかり合いを少くしようとの念願から前記和解をするに至つたのである。ともあれ参加人主張のように世の中が不景気なために家賃を滞つたのではなく、控訴人は相当の資産を有しながら、借家すると間もなく一年も二年も故意に家賃を支払わず、裁判沙汰にしてやつと一部を入金するという実情であつた。
五、同上第五項の事実中、隣家一棟を明渡したことは争わないが、そのことによつて控訴人と参加人とが本件家屋に同居することになつたのではなく、従来から同居しており、隣家一棟は居住には使つていなかつたのである。また控訴人に妻子のあることは、始めから参加人に判つていたことである。なお昭和二十四年中、参加人が福島家庭裁判所に調停の申立をしたことは争わないが、それは参加人が控訴人の許を飛び出し、昭和二十二、三年頃から、福島市宮町稲荷公園内のマーケツトで飲食店を営んでいたためである。また右調停は不調に終つたけれども、その後参加人は控訴人の許に帰つて同居し現在に及んでいる。参加人が子供等に対してとつた態度は甲第八号証の新聞記事のとおりであるから、参加人が日夜子供との間にはさまれて、苦労しているということは当らない。
六、同上第六項の主張は争う。即ち被控訴人の方で以前に参加人をも訴訟の相手方としたことは前述のとおりであるが、その後控訴人が本件家屋の賃料を支払わないので、被控訴人は昭和十七年頃、賃料の請求と家屋明渡請求のため弁護士阿部義次を代理人に頼んだ、そこで同弁護士は控訴人を相手として交渉したのであるが、その際本件家屋の賃借人が控訴人であることを認め交渉に応じたのである。即ち既に隣家は明渡済なので重ねて参加人を当事者とする必要もなく、本件家屋の賃借人が控訴人であることが確認されたのである。而してその後昭和二十一年二月中控訴人に不信行為があつたので、被控訴人は福島警察署に処置を願つたところ、訴外原吉三郎が仲に入り、控訴人において本件家屋の賃料を一切滞りなく支払う旨の示談協定ができたもので控訴人が賃借人であることが更に確認されたのである。されば被控訴人としては昭和二十一年勅令第四四三号地代家賃統制令第十四条第一項の規定による届出についても、同年十月二十二日に本件家屋の借主を控訴人として届出ておる。その後も控訴人が家賃を数年間に亘り全然支払わないので、昭和二十四年七月二十六日控訴人に対し催告書を発したところ、控訴人は滞納家賃を阿部弁護士の事務所に持参し且同弁護士は控訴人宛に受領証を発行したのであつて、控訴人はもちろん、参加人からも、参加人が借家人であるとか当事者であるとかの異議は全然なかつたのである。更に昭和二十六年十月六日被控訴人は賃料支払の催告及び条件附契約解除の通告(甲第三号証)を控訴人に対して行い控訴人は自分が賃借人であるとして滞納賃料の弁済供託(甲第五号証の四)をしている。しかも被控訴人はこの供託書を控訴人に返戻すべく郵送したところ、この郵便物を控訴人に配達するため郵便集配人は実に三十回に亘り控訴人方へ往復し、最後に娘礼子が代理人として書いた「受取る理由なし」との符箋まではられているのである(甲第五号証の一)。また昭和二十七年四月十六日本件家屋に対する仮処分命令を執行した際も、参加人は控訴人と共に在宅したが、参加人から自分が賃借人であるとの異議は何等出なかつたのである。
要するに控訴人や参加人の主張は、控訴人が自己の責任を回避するため参加人の名義を利用し自分の関知しないところだという常套手段に帰するものであり、参加人は控訴人と通謀し、徒に訴訟を遅延せしめようとして本件参加申出をしたものと思われる。その主張は正常な借家人及びその家族としては、著しく信義に反するものという外はない。
七、同上第七項の事実は否認する。参加人が独立の生計を営んでいるとか、已むなく共同生活をしておるというような実情ではない。
八、同上第八項の事実も否認する。即ち別れられるのをおそれて戸籍上つないでおくとか、追い出されぬために世帯主になつているとかいう主張は、控訴人及び参加人一流の詭弁であつて、その届出はいずれも控訴人と参加人との生活関係の実相を表明したものであり、思いつきや誤魔化しで二十数年間の継続的な人間関係が無視さるべきものではない。
被控訴代理人は以上のように述べた。
<立証省略>
三、理 由
第一、参加人の本件参加申出の許否について。
おもうに民事訴訟法第七十一条前段の規定は他人間に係属せる訴訟の結果により自己の権利が侵害され、もしくは侵害される虞のある第三者をして、その権利を保全させるため、当該訴訟に当事者として参加せしめ、被参加当事者及び参加人間の紛争を迅速且劃一に解決し、以て訴訟経済及び判決の牴触防止を図つたものに外ならないからして、右の第三者とは必ずしも既に係属せる他人間の訴訟についての判決が直接その効力を及ぼし、これに服従しなければならない者に限られるべきではなく、その訴訟の結果、間接に自己の権利を害せられる虞のある者をも含むものと解するのが相当である。本件の場合において、既存の訴訟、即ち被控訴人の控訴人に対する賃貸借解除を原因とする家屋明渡請求訴訟で、もし控訴人が係争家屋の賃借人であるとの認定の下に敗訴したとすれば、控訴人と内縁関係を結んで係争家屋に同居しており、且係争家屋の賃借人は自分であつて控訴人ではないと主張する参加人に不利益を招来し、参加人主張の賃借権が害せられる虞のあることは、否定し得ないところである。されば参加人は前示法条前段に所謂第三者にあたるものと解すべきであるからして、本件参加申出はこれを許容すべきであり、右に反する被控訴人の見解は採用し得ない。
第二、本件家屋の賃借人は誰か。
成立に争のない甲第一、二号証、第五号証の三、四、第十、十一号証、第十二号証の一、二、第十四号証、原審及び当審証人神岡紋(原審は第一、二回)、原審証人堀越ツヤの各証言、並びに本件弁論の全趣旨を綜合すると、次の事実即ち被控訴人先代神岡好次郎は昭和四年頃、控訴人に対して、原判決添付第一目録記載の家屋(建坪約十四坪の一戸)を賃料一ケ月金七円、毎月末日払の約定で期間の定なく賃貸し、爾来控訴人は、戸籍上控訴人の養女となつているけれども実際は内縁の夫婦同様の関係にあつた参加人と右家屋に同棲してきた。神岡好次郎は昭和十五年頃死亡し、被控訴人が家督相続によつて先代の権利義務を承継し、なお右家屋の賃料は昭和二十四年九月一日から一ケ月金七十円に、更に昭和二十五年八月一日から一ケ月金百七十八円に値上された。以上の事実が認められる。
控訴人及び参加人はいずれも、右家屋を賃借したのは控訴人ではなく参加人であると主張するけれども、成立に争のない丙第一乃至第四号証によつて認め得る下記事実、即ち本件家屋における煙草小売及び郵便切手収入印紙等の売捌或は雑貨類の販売業が参加人の名義で行われていること、また電燈、水道等の料金が参加人の名義で支払われていること等の事実は、いまだ前段の認定を妨げるに足らずまた乙第一号証、同第十二号証の一、二もこれを前記証人神岡紋の証言と対照するとき、右認定を動かす資料とするに足りない。原審及び当審証人半沢ツルの証言及び原審における控訴人本人尋問の結果中、上記の認定に反する部分は、たやすく信用できず、乙第十号証についてはその原本の存在及び成立を認め得る証拠なく、その他控訴人及び参加人の全立証によるも上記認定を覆して、本件家屋の賃借人が参加人であることを認定するに足りない。
尤も成立に争のない乙第二号証、同第十一号証の一、二、三、丙第五号証に徴すると、被控訴人先代神岡好次郎は、昭和九年三月五日弁護士遠藤一を訴訟代理人として控訴人及び参加人の両名を被告とし、本件家屋及び外一棟の家屋明渡請求訴訟を福島区裁判所に提起し、その訴訟事件について同年三月二十三日参加人主張のような裁判上の和解の成立した事実を認め得る。(右訴訟の提起は和解の点は本件におけるすべての当事者間に争がない。)しかし成立に争のない甲第二、三号証、同第十三号証、原審証人鈴木千代松、軽部三郎、今井吉之助、原審及び当審証人神岡紋の各証言並びに本件弁論の全趣旨を綜合すれば、控訴人は本件家屋賃借後間もなく、空家となつた隣家建坪十八坪三合の家屋に、その所有者である被控訴人先代に無断で道具類を運び入れてこれを使用するに至つたので、被控訴人先代も本件家屋の分と併せて賃料を一ケ月金十三円と定め右隣家をも控訴人に賃貸したのであるが、控訴人は被控訴人先代から賃料の請求を受けると、賃借人は自分でなく参加人であるなどといい、参加人はまた控訴人がいないから賃料を支払えないなどといつて、とかく賃料の支払につき誠意を欠き延滞勝ちであつたため訴訟における紛糾を避ける便宜上、控訴人と参加人との両名を相手としたに過ぎないものであつて、もともと控訴人に賃貸した事実には変りないことが認められる。なお前記和解の結果、隣家の一戸を被控訴人先代に明渡し、本件家屋は引続き賃料一ケ月金七円で賃借することとしたのであるが、この点に関する前記和解条項中に、本件家屋を控訴人と参加人両名に賃貸する旨の文言があるけれども、前掲証人神岡紋の証言と本件弁論の全趣旨に徴すると、右は本件家屋を改めて控訴人と参加人に賃貸するとの意味ではなく、従来の賃貸借関係を存続させ、ただ賃料の支払が前記のような口実の下に引き延ばされ勝ちであつた関係上、控訴人と参加人との両者に賃料支払についての連帯責任を負わせ、以て従来のような責任転嫁の口実をなくすることを期した趣旨と解せられる。即ち本件家屋の賃借人が控訴人であることに変りはないものと認められるからして、右のような事実は、いまだ以て本件家屋の賃借人が控訴人でなく参加人であるとの控訴人及び参加人の主張を支持するに足るものではない。
されば、本件家屋の賃借人が控訴人でなく参加人であることを前提とする参加人の請求は理由なしとして排斥を免れない。
第三、本件賃貸借の解除について。
被控訴人が昭和二十六年十月六日控訴人に対し書面で、昭和二十四年九月分から昭和二十六年九月分までの延滞賃料三千二百六十二円を同年十月九日までに支払うよう催告するとともに、もし右の期限までに支払わないときはこれを条件として本件賃貸借を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争がない。
控訴人は右催告に係る分の賃料については、本件家屋の修繕費として半沢ツルの支出した費用の償還請求権との相殺により、少しも延滞はないと主張するけれども、控訴人主張の費用が本件家屋の修繕のために支出された事実は、控訴人の全立証によつてもこれを認め難いからして右の点に関する控訴人の抗弁は採用し得ない。そして控訴人が右催告期間内に延滞賃料の支払をしたことについては何等の主張立証もないからして本件賃貸借は前記催告期間の満了と同時に解除されたものといわざるを得ない。(尤も前記甲第五号証の四によると、控訴人は昭和二十七年四月三十日になつて、昭和二十四年九月分以降昭和二十七年四月分迄の本件家屋の賃料として金五千七百三十九円を弁済のため供託したことが認められるが、右供託は前示催告期間満了後のことであるから、前記解除の効力発生を妨げるに足るものではないと同時に、供託に先立ち被控訴人に対し弁済の提供をした事実を認め得る証拠もないからして右の供託は昭和二十四年九月分以降右契約解除までの賃料弁済としての効力も是認し得ない。)
第四、建物収去敷地引渡の請求について。
控訴人が本件家屋に接続してその敷地上に原判決添付第二目録記載の家屋を建設所有していることは当事者間に争のないところであるが、本件家屋の賃貸借が既に解除によつて消滅した以上、控訴人は本件家屋の敷地上に所有する右家屋を収去して本件家屋と共にその敷地をも被控訴人に返還すべき義務ありというべきである。
第五、結論
以上説明の次第で被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 谷本仙一郎 村木達夫 檀崎喜作)